宮部みゆきの「ソロモンの偽証」を読んだ

映画化されると聞いて積読したままだった本作をようやく読了。

うーん、面白かったとは思う。思うけれど、僕は宮部みゆきが好きじゃない。肌に合わない。

高校生の頃に火車を読んだ時にも同じことを感じたことを覚えている。小説は上手だ。お話も面白い。でも楽しくない。読了した時に「読んでよかった」と思えなかった。あんまり書くと「火車」のネタバレになるので(というほど覚えちゃいないけど。なにせ20年前だ!)書かないけど、あのラストがゆえにそう思った訳じゃない。と思う。もしかしたら半分くらいはそのせいかもしれないけれど、それよりも何よりも。やっぱり宮部みゆきが肌に合わないんだと思う。

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人物が書けてるって何だ?

宮部みゆきは人物描写が深い。とか、登場人物にリアリティがあるとかよく聞く。本作を読んだ後ネット上の評価をいくつか見た感じでも、登場人物たちへの感想が多いように思えた。確かに本作の登場人物たちは良く書かれている。家庭環境が。心の動きが。微に入り細を穿ち描写されている。

でもそれが人物を書けているってことなのか?

これは別に登場する子供たちが軒並み子供らしからぬ優秀さを誇っているからじゃない。登場する大人たちが軒並み愚鈍で愚かだからじゃない。こんなのリアルじゃない!なんて言いたいわけじゃない。小説という舞台のためにそうあるようにデザインされた彼らにはそれがリアルでそれは全然問題じゃない。問題なのは彼らがデザインされた通りにしか動作しない単なる小道具としか感じられなかったことだと思う。

漫画家のインタビューなんかでたまに目にすることがある「キャラが勝手に動く」。この感じが全くない。結末目指して無駄なくそつなく最適な行動を繰り返し続けるだけの小道具。作中の言葉を借りれば「マップ持ってる感じがする」

だから人物が書けているという評価を見ると疑問符がつく。僕には入力に対して決まった出力を返す関数に見えてしょうがない。このキャラならこう聞かれたらこう返すよね。と、まるで化学反応を見ているみたいに感じてしまう。

そんな小道具達の中、増井望だけは血の通った人間に感じた。主要キャラじゃない、カバーの人物相関図にも入れてもらえないような小さな舞台装置の一つにすぎない彼だけれども、彼が最後に言った「謝ってほしい」というセリフ。そうだよな。ほんとに謝ってほしいんだよな。

お話の感想

最初にも書いたけど面白いは面白かった。正確には途中まで面白かった。正直ラストはひどい。納得いかない。

ミステリ的にどうかってところはどうでもよい。作者も別にそこで読者をアッといわせようなんて思ってないのはよくわかるし。

それよりも裁判の結果のあの甘ったるくて吐き気が出そうな感じ。自らを殺すほどまでに追い詰められた者に対して「もっと早くに、柏木君の葛藤が解けるように、悩みが軽くなるように、誰かが何かできたんじゃないか」「とにかく、何かできたんじゃないかと思います」「本当に残念です」「俺らもすごく哀しくて、悔しいって思ってることはお伝えしたいと思います」

何だこれ!?何だこの安全圏からの物言い。これだけ準備して、これだけ力を注いで出した結論がそれか?結局こいつらは「中学生なのに。しかも受験生なのに裁判なんてやっちゃう俺たちカッケー」くらいしか思ってないんだろうな。次にまた同じようなことがあっても、やっぱり何もすることもなく似たような結末を迎えて「俺たちまた救えなかったな」みたいな上から目線の言い訳をして3日もすればすっかり忘れて、楽しい生活を過ごすようにしか見えない。自分たちは決して自殺なんかしないとわかっているから生まれる余裕。

てか、なんでこいつら誰も浅井松子の理不尽な死に怒らないんだ?所詮は自分とは関係ないことだからだろ?ほんと胸糞悪い

そしてそして本当の最後の「2010年、春」。あーやっちゃいましたね。なんて陳腐な終わり方。それよくあるーってだけで何の内容も無い最低のラスト。読んでる途中で「まさか、あれから10年後……みたいなのはやらないよね?」って心配してたらばっちりやってくれてました。とほほ

この終わり方、本作に限らずたまにみるけれど、個人的にこれをみたら作者からの「すんません私才能無いんです」っていう告白にしか思えない。本作で言えば、20年もたってようやく「それを聞くときにはきっと何かがつっかえるだろうと思っていた。心の堰に。あるいは堰の名残に。だがそんなものはもう存在していなかった」って、それどんな呪いだよ。少なくとも野田健一にとっては、あの後のもっとも可能性に花開くであろう10代20代が呪いと共にあったということ。結局こいつのために「とにかく、何かできた」ことをしてくれる奴はいなかったということだけはわかった。

恒例のどうでもいいこと

  • 陪審員が8名になるところで「つまり読者である俺が9人目の陪審員になれってことだな」と思って読んでた
  • したら高校進学にメリットになるかも。という打算的なデブにその座をかっさらわれた
  • 結局読者は傍聴席にしか座らしてもらえなかった。というか俺はきっとヤマシンに外に放り出されたな
  • 藤野涼子の強烈な劣化っぷりはお話の都合とはいえちょっとひどすぎ
  • お話の都合といえば、あれだけの優秀さをもった彼らが核心部分に近づきそうになるときだけアホの子になるのもひどかった
  • でソロモンは誰よ?まさか、誰しもがソロモンだった。誰しもが何かしらの嘘を積み重ねていた。みたいなありがちな奴?
  • もしくは、社会制度・学校制度といった欺瞞によって構築されたシステムこそがソロモンだ。系のありがちさ?
  • 同じありがちならソロモンは作者だ。でお願いします
  • 性欲もなさそうな嘘くさい中学生たちによる自己欺瞞の耳触りの良い結末に向かう物語が偽証
  • 世間的な評価の高さを思うと自分の感覚はかなりやばいと思う
  • それでもやっぱり俺は宮部みゆきが好きじゃないんだな
  • 次は火車でも読み直してみますか